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kkj 特集~緑と共に暮らす

日本人と緑 ~ 山の物語

国土のほとんどを緑が覆っている日本では、自然崇拝(アメニズム)が根付いてきました。森に住んでいた人々は自然の偉大さ、恵み、そして非情さを「神」と名付けました。古代の日本人は神を敬いおそれ祈る行為を通し、自然とのつきあいかたに作法を持ちました。その作法により、人々は自然を利用しつつも破壊しつくすことない共生のシステムを作り上げていたのです。
地球温暖化を含む様々な環境問題を解決するために、日本独自の木の文化、自分たちのルーツでもある山と稲と水の文化から、これからの「自然と共生する作法」について、実現のためのヒントを探していきましょう。

山と森の文化~縄文の暮らし

日本は国土3,770万ヘクタールの7割(約2,500万ヘクタール)が森林に覆われている、世界でも有数の森林資源に恵まれた国です。森林の内訳をもう少し詳しくみてみると、天然林が54%、人工林が41%、その他が5%(ちなみに一番大きい天然林は富士山麓)。実は人工林が森林の4割を占める国は世界でも珍しく、日本人が昔から木を使いながら、木を植える生活を続けて来たことが伺えます。

今から約1万2千年前、人々は豊かな森の恵みによって暮らしていました。土器の文様を縄を使って刻んでいたことから、この時代を「縄文時代」と言い、住んでいる人々を「縄文人」と呼びます。さて縄文人は、ナラ林の中で狩猟採集型(※1)の生活を行っていました。森の中に落ちているドングリを拾い集め焼いたり、煮たりする他、アワ、モロコシ、シコクビエ、ハトムギ、オカボなどの様々な雑穀類とサトイモ、ヤマイモなどの芋類を焼畑農耕によって半栽培していました。 秋になれば川を上ってくるサケやマスを捕まえ、薫製や干物にして冬季の食料にしていました。
この縄文時代は約1万年ほど続きました。そして晩期に水田稲作技術を持った人々が、島の外からやってきて、時代は水田での耕作を中心とした稲作文化・弥生時代へと移り変わりました。

※1 島国である日本では海とのつきあいも深く、どちらかというと「漁りょう採集型文化」に近い生活だったようです。

水と稲の文化~弥生の暮らし

「オカボ」とは「陸稲」のこと。稲は縄文時代には雑穀の一種として焼畑で少しだけ育てられていたようです。そして農耕の主役はアワやイモ類でした。しかし水田稲作技術の到来によって、農耕の主役は稲作に変わり、国土の森林の3分の1を水田に変えるほど日本の中に浸透していきました。そして水田稲作農業は、山の整備・川の整備とも深く根付いていきます。元々急傾斜な日本の地形は、雨が降るとそのまま川に流れ込むような構造をしていたためです。降雨のあとに、土砂が川下の田んぼに押し寄せれば、収穫は絶望的になります。山の土を斜面に留め、降った雨をその場で地面に浸透させるために、人々は木を植え続けました。

木と森の文化を経て、水と稲の文化に入ったことで、日本人は山との関わりをさらに深めていきました。「豊かさの源には豊かな山がある。」そんな思想が根付いていたからこそ、戦後、焦土とかした国土の復興に際し、山に多くの木が植えられました。「緑」は私たちにとって限りない恵みをもたらしてくれるものだったのです。

縄文時代からの時代の長さを考えれば、それはついこの間のことです。しかしこの60年足らずの間に、日本人と山、日本人と田んぼの関係は崩れてしまいました。

自然との共生とは何か

多くの農耕文明は自然を切り開いて行われたため、神話の中で人は森の神と戦い、都市を築いていくと語られています。そうして切り開かれた土地を活かし、農耕牧畜文明はやがて都市文明へと姿を変えていったのです。しかし自然資源を搾取しつくした文明に明日はありません。それは歴史が証明しています。

日本では、古来から自分たちで木を刈った後に、自ら木を植えてきました。また水田を多く作ったことで、地下に浸透する雨水の量を増やしました。田んぼは天然林を切り開いた=自然破壊だという意見もありますが、それは前述の「農耕牧畜文化」とは違い、奪い尽くすことのない、まさに「共生」の技術です。そして与えられた自然からの恵みは、神様からの頂き物として、それこそ一つも無駄にすることなく、循環利用を行っていました。まず漆にはじまり、紙、食器、家具、建具、建材、槇などの資源、etc,etc... 。田んぼで取れた稲も同じように無駄にはしません。島国の日本が長らく鎖国してこれたのも、唯一のエネルギー源である「緑」を循環しながら活用していたからです。

しかしそんな文化も、いつの間にか薄れ、培われた緑と暮らす技術も姿を消そうとしています。かつて他の国に頼ることなく存在していた日本は、建材や資源のみならず食料までも他の国の生産に頼っているのが現状です。

奪い尽くされる資源と、使われることなく放棄される資源。
本当の意味での自然との共生とは、どんな社会によって実現されるのでしょうか?

そのヒントを探すために、今度は地球温暖化と緑の関係性について、緑が果たす役割と合わせて見ていくことにしましょう。

地球温暖化と緑

参考資料:環境問題とは何か/富山和子著/PHP研究所、森と水のサイエンス/(社)日本林業技術協会企画・中野秀章・有光一登・森川靖著、森の文明と日本―現代に生きる縄文文化/ 梅原 猛著/新潮社、日本文化の基層を探る~ナラ林文化と照葉樹林文化/佐々木高明著/NHKブックス

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