住む・暮らす

くらしかた・すまいかた

Vol. 05:宮崎台桜坂02

50年をかけた環境づくり

1950年頃の宮崎台の風景(写真中央が地主さん)
『森で遊ぶ子供達の声がいつも聞こえる場所を作りたい。
その子達がここを故郷として育ち、将来にわたって大切にこの緑を守っていく。
そんな人間としての土壌も次の世代に渡していきたい』
1955年頃の植林を始める前の敷地の姿
戦後、地主さんは東京の下町から宮崎台に移り住み、荒れ地だった敷地に1本1本、木を植えていきました。苗が育ち、木が森になり、森が住宅地として活用されるまでに50年。
そしてまた新しい50年が住民の営みと共に始まっています。
○都心に近く利便性の高い住宅地でありながら比較的抑えた価格で提供されたと伺っていますが、それは定期借地権(注2)の採用によるものなのでしょうか。

ご主人: 50年という長い年月をかけて大切に育てた緑地をなんとか残したい、という地主さんの希望がまずあって、そのための策をいろいろと検討されたようです。
日本の税制だと3代で土地がなくなるような仕組みになっているから、住宅地にある緑はどんどん消滅してしまいます。地主さんは戦争のために荒れ果てたこの場所に植樹して、自然環境の復元やその維持管理に心血を注いできた人です。
その地主さんの思いを活かすために、定期借地権という形が採用されたのでしょう。定期借地権を利用するにあたっては前例もないので、50年後は住民や住宅をどうするのか、契約にあたっての物価指数をどう設定するのかとか、そういったもろもろの問題をひとつひとつクリアして、緑地を残しつつ人が住めるような今のような住宅地が形成されました。住宅の価格を抑えることができたのはこの採用によるものが大きかったのではないでしょうか。

○50年の期限後についての対応はどのように決めているのでしょうか。

ご主人: 定期借地権の仕組みだと、預けた保証金が50年後に戻ってくるかわりに、建物を壊してさら地で地権者に返すという取り決めがあります。
まだ始まったばかりの取り組みなので、当然ですが、50年経った事例は1つも出ていません。私はさら地にして返還する以外にもっといろんな対応があってもいいんじゃないかと考えています。

○建物の性能的には50年くらいは住み続けられるんですね。

ご主人: 同じ家に住み続けることも可能ですし、建て替えて住み続けても良いですよね。でも建て替えるかどうかは、50年後に戻ってくる金額が預けた時点と同じような貨幣価値を持っているのかどうかによるんじゃないかと思います。

○この環境に住めるというのはうらやましいので、住宅地のままで残って欲しいですね。
例えばお子さんたちに、この家を住み継いで欲しいという希望はお持ちなんですか?

奥さま: 自分達が違う家に住むことになるのか、子供達がここにいるのか、どういうお仕事に就くかとかもまだ全然分からないけれども、できれば子供達に住み継いで欲しいですね。
私たちももっと年を取ると階段がだんだんおっくうになると思うし、今も洗濯物を下から2階に上げて干すのはけっこう面倒なんです。(笑)
年を取るとこの移動はきついなとか、子供達が独立してしまったらこの広さっているのかなとか、子供達が独立して他に住むようになったら、2人で維持していくのはきついのかしらとか、だったら小さいマンションのほうがワンフロアーだし段がないところのほうが楽なのかなと、そんなこれからのこともちょっと考えたりします。

○50年という時間の中で変わるのは、生活様式だけではないんですね。

ご主人: この土地がこんなに緑豊かになったのも、それが活かされたまま残ったのも地主さんに高い意識があったからだと思うんです。環境問題への関心の高い人は今であれば珍しくないでしょうが、50年前からそういう意識を持っていた、そういうところからも地主さんの意識の高さが伺えますよね。植物の手入れにしたって誰よりも詳しいし、世の地主さんと違って一番早くから地主さんはご家族で道を掃いている。だからいつも「地主さんはすごい」って感服しちゃうんです。
50年は長いので周りの環境もいろいろ変わっていると思いますが、地主さんの思いを受け継いで、最善な形でこの環境を次に伝えていきたいです。

○ぜひ実現していただきたいです。本日は貴重なお話をありがとうございました。
注2
定期借地権とは、契約期限が来た時に契約の更新がなく、建物を取り壊して更地にして返還する必要がある借地権のこと。契約期間の延長がなく、立退料の請求もできない。借地借家法では次の3つの種類が規定されている。契約期間が50年以上の一般定期借地権、同10年以上20年以下の事業用借地権、そして同30年以上で、建物付で土地を返還できる条件の付いた建物譲渡特約付借地権。新築住宅の供給では一般定期借地権のタイプが一番多い。 宮崎台桜坂では、50年の定期借地権を取り入れることで税制をクリアーし、次世代に豊かな緑を引き継ぐことを可能にした。

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