くらしかた・すまいかた
Vol. 07:錦が丘の家01
憧れの桜並木
○錦が丘というのは風流な名前ですね。何か由来があるのでしょうか。
ご主人: 家の前の街路樹はもみじや桜なんですが、現天皇の生誕を祝し、町内会の人々が植えたものだそうです。だから少なくとも樹齢70年は経っているし、「もみじと桜を植えたから「錦が丘」という町名に改めた」という話を隣のおばあちゃんから聞きました。
錦が丘の街路樹は桜やもみじが千鳥状に植えられているので、車がゆっくり走って安全なんです。残念なことに切られたりして、町内でも我が家の前の通りほど木が残っているところは少なくなりましたけど、他ではみない面白い取り組みなんじゃないでしょうか。
○お庭の紅葉の木も、街路樹と同じ時期に植えられたものですか?
ご主人: そうです。以前は、ここには大きな家が建っていて、敷地は我が家とお隣を合わせた2件分あったんです。前のお宅が建てられたのはちょうど錦が丘の町名になったあたりだから、この木もその当時からあったようです。だから我が家でも切らずに残しました。
○ここに居を構えることになったいきさつを教えてください。
ご主人: この家の前の桜並木は、土地を買うずっと前から、僕のお気に入りの場所でした。春が来て桜が咲く頃になると散歩の足を伸ばして、よくここらへ桜を眺めに来ていたものです。
その頃から漠然とですけど、「住むのならこの敷地がいい。」と思っていて。だからこの土地が売りに出された時は本当にびっくりしました。
でも駅から近いし、環境も良いので、バブルの頃にはとてもとても、僕たちには手が届かない値段だったんです。でも価格が届く範囲にまできたので、今に至るわけです。
奥さま: 長いこと見ていたので、価格の変動が良くわかりましたね。バブル前とバブル後では全く違う。何をどうやっても無理だったのに、いま住んでいる。
○縁があったんでしょう。「こんな場所に住みたい」と思っていても、誰でも叶えられる望みではないですから。
ご主人: そうですよね。自分でもこの場所に住めるようになるとは、夢にも思わなかったです。
時間をかけて土地を読むことの大切さ
○土地を買って、家を建てるまでにずいぶん長い時間をかけたとお聞きしましたが。
ご主人: そうです。1998年に購入して、まる一年かけてどういう家にするかじっくり考えました。
日がさしてくる方向や、周囲の緑の位置とか。四季の変化もそうですけど。何度も通って確かめて、家の位置や窓の位置を決めたんです。どの位置に窓を開ければ夏の風が家の中を抜けていくか。冬の暖かい陽が差し込むか。いい景色が見えるか。お隣と視線が合わないようにできるか。周辺の環境をどう取り込むかとか、色んなことを考えて、考えてプランを決めました。
○土地を読むのに1年かけるというのは、なかなかできませんよね。
ご主人: やっぱり、こだわった方がいいことはありますから。自分達が長く暮らす家に対して、時間と手間を惜しまないことは大切だと思うんです。手間が楽しかった、というのももちろんありましたけど(笑)。
○そんなこだわりを持って建てた家の、一番魅力的なところはどこですか?
奥様: 光が多いことでしょうか。一日中心地の良い家ですが、うつろいがあって、時間ごとの光の変化を眺めるのが楽しみなんですよ。
ご主人: 光と影の変化というんでしょうか。夏は日が入ってきませんが、その他の季節は朝から夕まで部屋に日がたくさん入ってくる。落ちていくうちに、床や壁に映った影も一刻一刻と表情を変えていく。夏なんかだと夕方になっても電気をつけないんですよ。つけないで日が落ちていく様子を眺めながら、部屋の中でビールなんか飲んでいる。そういうのが、たまらなくいいんです。