くらしかた・すまいかた
Vol. 08:再生エコハウス
『終の棲家』を奈良に求めた理由
○この家に住むことになったきっかけを教えてください。
濱さん: 僕は九州の出なんですが、妻は兵庫県西宮の出身で実家もありました。
「老後をどこで暮らすか。」ということを話し合った時に「首都圏には住む必要がない。」と2人で同じ意見になって。妻は、「関西だったら奈良がいい。」という意見でした。僕が九州に単身赴任したのをきっかけに、妻と子供達が奈良に引っ越すことに合意したのです。その後、私が大阪で新しい勤め先を見つけられたこともあって、横浜にあったマンションを引き払い、奈良が家族の拠点となりました。
奈良の中でなぜ学園前地区になったのかというと、駅から3分くらいの場所にたまたま友人の実家があって、空き家になっているので3年間だけ貸してもらえることになったためです。
借家で住んでみたら、このまちが気に入ってしまいました。
この駅は奈良の中心部にも、大阪にも、京都にも出やすいターミナル的な場所で、病院も郵便局も勤め先の支社もあるし、駅前にいけば生活に不便することはない非常に便利なまちなんです。
そのうえ郊外ならではの静けさとか、環境とかを楽しめる。
「ぜひこのまちに住み続けたい。」という気持ちになったので、住みながら自分たちがずっと住む家を探しました。
○なぜ中古住宅を購入してエコ改修しようと思われたのでしょう?
濱さん: 家を探してビラを見ているうちに、「古家付き」という売り地があるのに気がつきました。公庫の中古住宅の融資も木造の場合築20年までしか対象とされないように、築20年以上の建物というのは価値のないものとして扱われているんですね。
でも、荒れていてもまだまた使えそうな家も中にはあるわけです。使えそうな躯体をわざわざ壊し、廃材を捨て、新しい材料を使って家を建て変えるよりも、そのまま既存の住宅を活かしたほうが資源の節約と廃棄物の削減にもつながり、エコ改修の条件としてはよりふさわしいのではないかと感じたからです。
○たくさんの物件を見た中で、最終的にこの家にした「決め手」は何だったのでしょうか?
濱さん: この家は、妻がはり巡らしていたネットワークで見つけ出してくれました(笑)。不動産会社から電話があって実際に見てみて「こりゃあ行けるな。」と思いましたね。築27年というけれど、鉄筋コンクリート造の白い建物はあきらかにまわりの住宅とは違っていて、建築事務所の設計によるものであることは一目瞭然でした。玄関を見ると扉が木製のしっかりしたもので高さが天井まである。室内のドアも2m、僕は背が高いので、その点も気に入りました。
持っていった水準器をあてて、傾きや変形がないことを確かめるなどいろいろチェックしましたが、下見の終わる頃には「この家を買いたい。」という気持ちになっていました。
もちろん鉄筋コンクリートは構造の変え難しさがあることは承知でしたが、2階テラスからの眺めが素晴らしかったことや、和風の落ち着いた庭があったことに加え、中庭やテラスを活かした改修ができれば、きっと素晴らしい家にできるんではないかと思い、購入することにしました。
○知らないまちの物件をいきなり買うのではなく、まず賃貸で仮住まいして、まちが気に入ったら購入物件を探す、というのはとても賢い方法ですね。
濱さん: 結果的には僕らはそれができて、すごくよかったですね。ニュータウンは元々住むところが無いわけですからしょうがないですけど、可能であればこの方法をオススメします(笑)。
「再生エコハウス」の計画・実現
○エコ改修は具体的に、どんな手順で進んだのでしょうか?
濱さん: 基本方針は「既築の改修で環境共生住宅を作る」ということでした。たくさんの人のお知恵を拝借しながらより良い改修・再生住宅にしたくて、僕が呼びかけて発足したばかりの「エコ住宅研究会」のケーススタディの材料にしてもらいました。
(※改修の様子は本としてまとまっている。「わが家をエコ住宅に・環境に配慮した住宅改修と暮らし」濱 惠介著/学芸出版社)
その会で議論して、3つのテーマを設け、改修はそれぞれのテーマに沿って範囲や規模を決めていきました。テーマの1つ目は「資源の有効利用と廃棄物の削減」で、既築のコンクリート住宅を改修することで再生させ、建物の寿命を延ばすこと。2つ目は「省エネルギーと熱環境の改善」です。外壁と開口部の断熱性を向上させ、省エネルギー性を高めること。3つ目は「自然環境との親和」良い季節には内部空間と外部空間を遮ることなく、互いに行き来し交流しあうような空間をつくること。勿論、太陽エネルギーで電気やお湯を作ることも当初から考えていました。
こういったテーマを追求しつつ、節度ある快適性をできるだけ小さい環境負荷で実現するのを目標にして、設計作業を進めていきました。
○中古住宅のエコ再生において、一番重要なポイントは何でしょう?
濱さん: まず、その家が改修する価値、つまり構造的な耐久性があることを確認することでしょう。この場合はそれが前提で購入したので、それはさておき、次に大事なのは、建物の断熱性をあげることでしょうか。この家は凹凸が多く、普通の四角い家よりは表面積が多く、逃げていく熱の量が大きくなります。いわゆる「熱損失」が大きい家なのです。その対策として中庭のアトリウム化と外壁や屋根の外断熱、それに開口部の二重化を行いました。
どんなに性能の良い暖冷房機器をいれても、断熱性が悪ければあまり効果は期待できません。反対に機器に頼る前に建物の性能を上げておけば、機器の運転時間が短く、消費エネルギーも少なくなりますから、まずは建築の断熱性、遮熱性をあげることが中古住宅をエコ再生する場合、重要なポイントであると言えます。
○「機密性」についてはいかがでしょう?
濱さん: 断熱はしっかりやった方がいいけど、そこそこ気密性があれば高気密はそんなに追求しなくていいと思うんですよね。
縁側の木製建具なんかすきま風だらけですからね。
二重窓したところは結果的に気密性が高まっていますけど、やっぱり古い家だし、昭和40年代のアルミサッシってすかすかなんですよ。それだけだと風が強いときは隙間風が入るのが感じますよ。
昔はみんなそんなものでした。
○二重窓はペアガラスとは違うのですか?
濱さん: 新たに作った窓だけが複層ガラスです。もともとのサッシを生かしたところは、シングルガラスの障子が2重です。
そうですね、新しいのを複層ガラスにして三重にしてもよかったかもしれないけど、ただ重いでしょ。もう一つ思っていることは、内側が二重で、外側がシングルだったらもっといいかも知れませんね。
最近は春に近づいたこともあって太陽高度が上がったけど、12月、1月は低いですよね。シングルガラスのほうが太陽熱がより多く入ってくる。大きいですよね。日中はシングルにしておいて、夜は内側のを閉める。熱的にはかなり効率が高い。きちんと計算をしている訳ではないですけど。
ペアガラスが必ずいいという訳ではないんで、日射を取り込む時はシングルがよくて、熱を逃がしたくない時は三層がいいと思います。
住み始めてから気付いたことですが、二重窓にすると遮音性がすごくよくなる。これもメリットかも知れませんね。
(本ページの写真・図版提供:濱 惠介)