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くらしかた・すまいかた

Vol. 08:再生エコハウス

四季のしつらえ~奈良の暮らし

春から秋のしつらえ:撮影/濱 恵介
冬のしつらえ:撮影/濱 恵介
○四季ごとに、部屋のしつらえを変えたりしますか?

濱さん: この部屋(元々中庭だったところ)は年に2回家具を入れ替えますね。春から秋には丸いテーブルを持ってきてここで朝食を取るから「ダイニング」になるし、冬はソファと入れ替えストーブを焚いて、暖かい「リビング」になる。小さいけれど、ここが一番季節を反映している部屋だと思います。

○夏場は薪ストーブを片づけてしまうのでしょうか?

濱さん: いや、これは動かせません。綺麗に掃除してオブジェを入れて置いています。それに夏でも役に立つんですよ。
「夏炉冬扇」て言うでしょ。季節外れで役に立たないものの代表だけど、煙突が換気装置になるんです。ダンパーを開けておいて、風が吹けばここから吸い込まれるんです。冬はもちろんそうですよね。部屋の空気を使って燃焼し排気を外へ出します。ストーブはドイツ製です。性能が凄くよくて、よく燃えはじめると煙は殆ど出ません。こからガラス屋根を通し煙も点検できるんですよ。煙突が途中で折れ曲っいてるのは掃除のためです。

○家の暖房は薪ストーブだけで済みますか?

濱さん: うーん、そうではありませんね。うちは電気、ガス、灯油、薪、炭、いろんなエネルギーを使っているんです。リビングとDKには温水床暖房があります。それにガスファンヒータや石油ストーブも併用しています。石油ストーブは電気もガスもまったく切れた時のために必要と思い、阪神大震災のすぐ後に買いました。円筒形のアラジンのブルーフレームです。
全然臭くないし、やかんをかけるとお湯が沸くし。暖房の廃熱でお湯が沸くということは、給湯の熱効率が100%ということなんですよね。外で仕事して、床暖房じゃ手がかじかんだ時どうしようもないじゃないですか。ああいう手をかざす熱源もやっぱり欲しいので、そこら辺は使い分けています。

○自然エネルギーの活用を積極的になさっているようですが、エネルギー収支の内訳を教えてください。

濱さん: 自然エネルギー利用の代表は太陽光発電と太陽熱温水器、それに先ほどの薪ストーブです。
エネルギー消費量について具体的に言いますと、2004年から2006年の1ヶ月平均で、電力消費159.7kWh(太陽光発電232.6kWh)、都市ガス26.6m3、灯油4.2リットル、水道9.4m3となっています。 戸建てにしては比較的少ないと思います。特に、冬が厳しい奈良の戸建てにしては少ないですね。 徐々に改善されているから、費用的にも随分減っていますよ。
※二酸化炭素排出量(バイオマスは輸送エネルギーのみ算入、水道を除く):2004年から2006年の平均で、588kg-CO2/年。これは平均的な1世帯当たり排出量の1/5以下に相当すると思われます。(電気のCO2原単位を0.36kg-CO2/kWhで評価)

表1:再生エコハウスの環境負荷推定(一次エネルギー評価)
一次エネルギー評価・自然エネルギーは負荷ゼロ
表2:2005年~2006年までの光熱費
※2000~03年は3人居住、2004年以降は2人居住
○光熱費は年々下がっているんですね。

濱さん: 光熱費の推移表(表2)を見ると、売電もあるから、2005年だと月々平均の光熱費が2,000円くらいですね。2004年から2006年の1ヶ月平均ですと、買電(支払)1,902円、売電(入金)4,192円、差し引き2,290円の所得、都市ガス4,109円、灯油243円、合計2,062円となっています。
2004年からは3人だった家族も2人になってしまったんですけど、2人でも3人でも冷蔵庫は1台だし、浴槽1杯分のお湯は同じだし、家族の人数が変わっても消費電力やお湯の量ってそんなに変わらないです。家族人数が半減したからといって、電気料が半分になるわけではない。そう考えると『小家族化』って大変な問題です。3、4人一緒に住めば省エネになるんだけど、現実には小世帯化が進む一方。これは深刻な問題ですね。

暮らしと住まいに一番大切なこと

古い建具を活かし空間を細かく間仕切ることで、暖冷房効率をあげる。
この引き戸も濱さん作。
濱さん作のコート掛け
○この家に住む前から、住まいに自分で手を入れるのがお好きだったのでしょうか?

濱さん: だったんでしょうね(笑)。子供の時から、工作が大好きでした。
前住んでいた家は集合住宅だったのに、それでも結構やってましたね。ベランダにウッドデッキを敷き詰めたり、バルコニーにスダレを吊るすのにも、単に吊るすんじゃなくて、カーテンレールを通してスダレが左右に動くようにしていたとかね。洗濯干しも目立たないけど上手に乾く場所を作るとか。屋根裏の空間があったから、大工さんを入れてですけれども、床をつくって物置きを増設したり。いろんなことやってました。

○あちこちにその経験が活きてますよね。

濱さん: 大工さんになってもよかったかな。手づくりの工夫が好き。電気仕掛けじゃ無くて、こういう力でこういう風に動くとか、アイディアがあっちこっちにあると面白いでしょう。

○見ると気が付くんですが、思い付くのはなかなかできませんよ。

濱さん: 『すまいづくり』って専門家に任せるだけじゃなくて、自分の力の手を加えることで愛着が湧くし、自分が作ったらそう簡単には壊せないですよね。例えば、ちょうど洗面台を自分で作り変えている最中で、それは前の陶器の洗面器や水栓をそのまま再利用しているんです。
かっこ悪いけども自分で作ったものにはちゃんと愛着があって、その「愛着」が、住まいには必要なんじゃないかと思います。妻がカタログ持ってきてこれのほうが綺麗だからこれにしよう、と言われても承知できない。

○作り変えができるのは、素材が木だからということもあるのでしょうか?

濱さん: 木はいいですよね。なんとでもなる。削れるし、穴あけられるし、金属、プラスチック、コンクリートはなかなか難しい。天然木だったら端材が出てもどこかに使い回しもできるし、最後の切れっ端だって燃料になる。全く無駄がない素材だと思います。
コンクリートでも木レンガなんかを打込みの時ちょっと入れておくだけで、そこが手がかりになって、ネジなんかを打ち込んで夏の日射遮蔽が窓の外側でできることにもつながる。手がかりさえあれば、あとはなんとかなりますからね。

○あとは手間をかける、と(笑)。

濱さん: 手間をかけるのが楽しいということになればいいんですよ。レジャーだと思えば(笑)。
一番ややこしいところは自分でする!と。
大工さんにやってもらうところはお任せして、最後の細かいところは自分でやる。

○住み続ける限り楽しみが続くわけですね。

濱さん: 今思えば色んなことを積み重ねて、工事が終わったことが終わりじゃなくて、その後もずっと細々となんか続けている感じです。

○『終の棲家』ということもあるんでしょうか。

濱さん: もうこの家は売らない、もう引っ越さないぞ、と決めたから続いているかもしれないですね。

○濱さんのように、中古住宅を購入して環境共生型の改修をしたいと思っている人はけっこういると思います。ただ、興味はあるけどどうしていいかわからない、という人も多いでしょうし、実際によくそんな悩みも耳にします。 そんな人に向けて、何かアドバイスをいただけますか?

濱さん: まず大事なのは、ずっと住んでも良さそうな好ましい環境が家の周りにあるかどうか。そして建物の躯体がまだまだ丈夫かどうかの見極めだと思います。その家をどのくらい使いつづけられるかによって、改修のための投資額も変わってくるでしょう。
次に「環境共生の要素」についてですが、「自分が特に大切にしたいと思っている要素は何か?」をはっきりさせるといいでしょう。要素をはっきりさせたら、その実現に何が有効かを勉強することですね。地球温暖化防止のための省エネルギーは環境共生住宅に欠かせない要素ですが、実現のための方法がいろいろとあるので、もし迷うようであれば専門家に相談したり、実践者の話を聞いたりしてみると良いでしょう。僕の話でよければ、2004年に「エコで楽しむ住宅改修」という12回の連載記事を書きました。技術や値段などはその後の変化があるでしょうが、参考になると思うので、一度サイトを覗いてみてください。

■ 参考サイト:大阪ガス エネルギー・文化研究所HP > 論文・レポート検索
『エコで楽しむ住宅改修』濱 惠介
※「著者:濱恵介 キーワード:エコで楽しむ住宅改修」で検索すると、ホームプロのメールマガジン「エコで楽しむ住宅改修」の全12回の連載記事を読むことができます。

住まいづくり・住まい方の姿勢としては、『今あるものを大切にすること』、『ほどほどの快適性・利便性で満足すること』、『自分達だけでなく将来の世代が楽しく生きられるよう配慮すること』なども環境共生住宅の本質ではないかな、と思っています。

○貴重なお話をありがとうございました。

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