住む・暮らす

kkj 特集~環境共生住宅と水害

水害と共生する

日本列島は、温帯湿潤地帯にあるため、台風や集中豪雨に繰り返し見舞われてきました。
しかし「水害多発地域」の多くは、昔ながらの「米どころ」であり、自然による「災害」と「恵み」と共に暮らしてきた「共生」の歴史があります。
他国に比べて平地が少なく、河口に近い低地に大きな都市がある日本では、全ての人が水害の起きない土地に家を建てて暮らすのは現実的ではありません。
その上で私たち自身ができる対策にはどんなものや事があるのでしょうか?

「水害と共生する知恵」について、「先人の知恵」や「災害アプリの活用」、「水害被害を低減させる家づくりの考え方」や「水害被災からの復旧活動」などの情報をご紹介します。

水害との付き合い方~先人の暮らしの知恵

宮城県北部にある旧鹿島台町(現、大崎市)では、吉田川の氾濫が頻発していました。
そこで大雨が降る事に備え、住民は下記のような対策をとっていました。
・早めに稲を収穫し屋根に置く
・大きい味噌樽は、流されないように縄で稲と繋ぐ
・ゆっくり浸水することが分かっていたので、自宅の2階や屋根の上に垂直避難する
・平屋の住民は2階建ての家にお世話になり、いっときの共同生活を送る
・大雨がおさまった後には、隣町から舟がやってきて、2階や屋根に避難していた人たちにおにぎりなどの食料が投げ込まれる
・浸水した家の復旧作業では、「水嵩があるうちに」水の浮力を利用して、倒れたタンスなどを移動させる
・家屋の土塀は崩れているが、木造枠は残るので、左官が壁を補修して、すぐに家を再建させる
宮城県北部にある栗原市の例
・「長屋門」の屋根裏に舟がつるされていて、洪水が発生した際に住民を避難させたり、生活物資を運んだという記録がある。

「自然との共生は、自然災害が起こることを前提として、「住む覚悟」を持つことでもあるといえるだろう。」
(出典:「防災と風土・文化・宗教」佐藤翔輔・著/自然災害科学・防災の百科事典、令和4年1月発行、日本自然災害学会・編著、発行 丸善出版)

防災情報の活用~事前に自宅付近の被害の可能性を理解しておく

・災害が起きてしまった後では、避難情報の入手も困難になることが想定されます。自治体から公開されている浸水の予想される区域や浸水の程度、避難所などの情報を記載した洪水ハザードマップを確認しておきましょう。
・近年の局地的豪雨では、河川の氾濫だけでなく、低い土地に周囲から雨水が集まり、浸水することがあるので、地形にも注意が必要です。

関連情報

サービス名 事業主体 概要
ハザードマップポータルサイト 事業主体: 国土地理院 概要: 事前の防災対策や災害時の避難などに役立つ情報を全国どこでも1つの地図上の上でまとめて確認できる「重ねるハザードマップ」と、全国各市町村のハザードマップを確認できる「わがまちハザードマップ」を公開。 令和4年度からは、新たに中小河川の洪水浸水想定区域図データの提供を開始。随時、情報が追加・更新されています。
ハザードマップポータルサイトのTOPページ。左側に「重ねるハザードマップ」、右側に「わがまちハザードマップ」の入力画面があります。
「重ねるハザードマップ」の表示画面例。洪水・津波・高潮(各想定最大規模)、土砂災害、道路防災情報、地形分類を重ねることで、各種の災害リスク情報(洪水浸水想定区域、土砂災害警戒区域など、高潮浸水想定区域、津波浸水想定、道路防災情報、指定緊急避難場所)を確認することができます。

防災アプリの活用~リアルタイムの状況把握と行動判断のサポートツール

洪水のような進行型災害時には、リアルタイムでの河川の水位状況やこれからの降雨予想など、自分自身の避難行動に役立つ情報の収集が不可欠になります。
防災アプリを活用することで、急な判断が迫られる災害時に、自分自身の行動のチェックリスト、また判断のサポートツールとして役立てることができます。

関連情報

サービス名 事業主体 概要
デジタル・マイ・タイムライン 事業主体: 国土交通省(アプリ開発は開発会社が担う) 概要: 台風の接近時などに、「いつ」・「何をするのか」を住民一人ひとりに合わせて、あらかじめ時系列で整理した自分自身の避難行動計画である「マイ・タイムライン」とスマートフォンアプリの防災情報のプッシュ通知機能などデジタル技術を融合させたもの。
現在、デジタル・マイ・タイムラインのアプリは、各アプリ開発会社などより提供されているため、利用者が選択して利用することが可能。
Yahoo!防災速報 防災タイムライン 事業主体: ヤフー(株) 概要: デジタル・マイ・タイムラインのyahoo版のアプリ。
サトモリ 事業主体: (株)NTTデータ 概要: NTTデータによる、デジタル・マイ・タイムラインの自治体向け防災サービス。
Yahoo!防災速報 防災タイムライン
サトモリ((株)NTTデータ)自治体向け防災サービス

水害に備える家づくり

気候変動の影響により、近年の水災害による被害は甚大化・頻発化しています。国は従来の想定値に基づいて作られてきた施設能力を超過する洪水が発生することを前提に、社会全体で洪水に備える水防災意識社会の再構築を一歩進め、気候変動の影響や社会状況の変化などを踏まえ、あらゆる関係者が協働して流域全体で行う、流域治水への転換を推進し、防災・減災が主流となる社会を目指しています。
ここでは、甚大化・頻発化する水災害が起こる前提とした水害に備える家づくり・暮らし方の方法についてご紹介します。
※ご紹介している取り組みの写真はあくまで一例です。

家を建てる際の浸水対策

地盤を高くする:敷地全体に盛り土を行い、周辺よりも家の地盤を高くする。必要に応じて沈下、または崩壊が生じないよう締め固め、鉄筋コンクリートの擁壁を設ける。
防水壁で家を囲む:住宅の周囲を防水性のある壁で囲み、敷地外からの浸水を防ぐ。開口部は陸閘(※)により住居への浸水防止を図る。
※陸閘とは、堤防を切って設けられた河川への出入り口を閉鎖する門のことで、洪水の時には陸閘が閉められ堤防としての役割を果たします。
高床式にする:柱などにより床面を高い位置に設けるピロティ構造や、鉄筋コンクリート造の基礎を高くし、想定される水位よりも床の位置を高くする。
外壁を耐水化する:建物自体を防水性のある建材などで囲む、建物への浸水被害を低減させる。
止水板を活用する:玄関などの室内への侵水経路になりそうな開口部には止水板を取り付け、防水対策を行う。
基礎部との接合を強化する:木造住宅など、自重の軽い建物などは水位上昇により生じる浮力で浮き上がらない用、基礎との接合を強化する。

家を建てる際の浸水対策

【地盤を高くする】

〇敷地全体に盛り土を行い、周辺よりも家の地盤を高くします。
〇必要に応じて、沈下または崩壊が生じないよう締め固め、鉄筋コンクリートの擁壁を設けましょう。

盛り土をして敷地全体を高くする
資料/国土交通省「適応策選択の考え方(洪水対策を例に)」
沈下または崩壊が生じないよう締め固め、鉄筋コンクリートの擁壁で囲う
資料/岐阜県 水害に強いまちづくり検討会「地域の自主努力による水害に強いまちづくりガイド」
【防水壁で家を囲む】

〇住宅の周辺を防水性のある塀で囲むことにより、敷地外からの浸水を防ぎます。
〇道路面より少し高く階段を設けたり、地下車庫に止水板を設置することによって、浸水を軽減することができます。

半地下の玄関を浸水から守る階段
資料/世田谷区「集中豪雨に注意しましょう 各自でできる浸水対策」
地下車庫に浸水させない止水板
資料/世田谷区「集中豪雨に注意しましょう 各自でできる浸水対策」
【高床式にする】

〇柱などにより床面を高い位置に設けるピロティ構造や、鉄筋コンクリート造の基礎を高くする構造により、想定される水位よりも床の位置を高くしておきます。

鉄筋コンクリート造の基礎を高くする
資料/岐阜県 水害に強いまちづくり検討会「地域の自主努力による水害に強いまちづくりガイド」
【土嚢、止水板、排水ポンプなどを備える】

〇水が住戸内に浸水すると、水深26cm程度でドアを開けなくなり、避難できないとされています。
 水が住戸内に浸水しそうな場合、水が入ってくるのを防ぎ、遅らせる手立てが必要です。
〇豪水時に浸水の危険がある敷地で半地下の駐車場などを設置する場合は、豪雨時などに浸水しないように土嚢や止水板を備えておきましょう。
〇浸水した場合は、排水をする必要があるため、地下室や地下駐車場などには排水ポンプを備えておきましょう。

普段はコンパクトに収納しておける水嚢を用意する
ゲル状の素材が入ったもので、水を吸収すると膨らんで重くなる。
資料/環境共生まちづくり協会「環境共生住宅早わかり設計ガイド」
止水板を備えておく
予めレールを設置しておき浸水危険時に止水板を設置するタイプや、路面に防水シートを格納しておくタイプなどがある。
資料/環境共生まちづくり協会「環境共生住宅早わかり設計ガイド」

レジリエンスな家づくりの取り組み

日本では、気候変動の影響もあり、都市部での洪水被害が相次いでいることから、氾濫を前提とした都市づくりや建築における対策が求められています。
そこで国立研究開発法人 建築研究所では、水害リスクを踏まえた建築・敷地レベルでの浸水対策や土地利用の誘導方策の在り方を研究しています。
戸建て住宅の耐水性能については、「浸水を防ぐ」「早期・安価に復旧」「耐水性の向上」の3つの観点からの耐水化案を作成・公表しています。

【都市・建築の水害リスク対策に関する研究成果について/2022年・国立研究開発法人 建築研究所】

頻発・激甚化しつつある水害のリスクを背景に、建築研究所では「水害リスクを踏まえた建築・土地利 用とその誘導のあり方に関する研究」(令和元年度~3年度)を、3年間かけて実施。
〇浸水想定区域図の想定浸水深よりも、実際は小さな浸水被害が多く、資産被害の低減の観点からは、大きな想定のみに囚われず、できる対策を講じることが重要であることが示唆された。
〇浸水想定区域内で実際に水害に見舞われる頻度は、都市化や地形の条件などにより大きく異なる。条件を明示した「水害リスクマップ」の作成が望まれる。
〇過去の水害の分析結果からは、浸水想定区域外での被害が3割弱を占める。
〇戸建て住宅の耐水化について3つの「耐水化案」の試設計を実施。50万円程度の追加工事により90万円程度の被害額低減効果が期待できる場合がある。

耐水化案の特徴と課題

比較項目 b1.修復容易化案 b2.建物防水化案 b3.高床化案
費用対効果 b1.修復容易化案: 浅い浸水被害に対する費用対効果が大 b2.建物防水化案: 腰窓以下の床上浸水に対して、一定の費用対効果 b3.高床化案: 1階レベルの洪水への費用対効果が最も高い
特筆性 b1.修復容易化案: 低廉な費用で実施可能 b2.建物防水化案: 財産・生活被害や社会性負担の減少(家財被害・生活支障、仮説住宅・災害ゴミ処理など) b3.高床化案: より高い浸水にも、2階避難で生命が安全に
適用性 b1.修復容易化案: 浅い浸水被害に対する費用対効果が大 b2.建物防水化案: 腰窓以下の床上浸水に対して、一定の費用対効果 b3.高床化案: 1階レベルの洪水への費用対効果が最も高い
実現・普及に際しての課題 b1.修復容易化案: 修復工事期間中に2階などで生活継続の可能性 b2.建物防水化案: 低廉で信頼性の高い壁面・開口部の止水方法の開発 b3.高床化案: 簡便な昇降支援システム

資料/国立研究開発法人 建築研究所「水害に強い住宅づくりへの取り組みを開始しました~「浸水を防ぐ」、「早期・安価に復旧」、「耐水性の向上」の3つの観点からの耐水化案の検討などについて~」


【予防対策】雨水の地下浸透を促進する
雨水地下浸透工法は、浸透トレンチや浸水桝、透水性舗装などの雨水浸透施設を組み合わせて、降雨水を地表又は地表近くの土中に分散・浸透させ、地区外への雨水流出を最小限に抑えようとする手法です。設置地区からの雨水の流出総量、ピーク流量が減少し、降雨開始から流出までの時間を遅らせ、都市型水害を防止する役割を持っています。
世田谷区では、「雨庭づくりを実践し、その魅力や意義を地域の中で率先して広めていく」グリーンインフラリーダーの育成をめざした「グリーンインフラ学校」を開催しています。全3回の講座では、自然環境が持つ多様な機能を賢く利用するグリーンインフラや雨水利用などを体系的に学び、自分でも実践できる「雨庭」を演習フィールドで手づくり施工までを学ぶことができます。グループワークやディスカッションを通じた、主体的な学びの場となっています。
図版出典/一般財団法人世田谷トラストまちづくり「世田谷グリーンインフラ学校 令和5年度募集チラシ」

参考サイト:世田谷トラストまちづくり「世田谷グリーンインフラ学校」

【予防対策】電気設備の浸水対策
令和元年東日本台風(第19号)による大雨に伴う内水氾濫により、高層マンションの地下部分に設置されていた高圧受変電設備が冠水し、停電したことによりエレベーター、給水設備などのライフラインが一定期間使用不能となる被害が発生しました。
こうした建築物の浸水被害の発生を踏まえ、国土交通省と経済産業省の連携のもと、学識経験者、関連業界団体などからなる「建築物における電気設備の浸水対策のあり方に関する検討会」を令和元年11月に立ち上げ、令和2年6月に「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」として取りまとめました。
図版出典:国土交通省「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン パンフレット(A3印刷版)」

参考サイト:国土交通省「建築物における電気設備の浸水対策のあり方に関する検討会」

【予防対策】雨水活用技術規準
ゲリラ豪雨が頻繁に起き、異常気象が極端気象と呼び替えられるに至った今日、これまでの下水道や河川では雨水に対応できなくなり、流域全体で面的に雨水を管理することが求められています。雨を防ぎ流し去るだけという建築のつくり方を根本的に見直す必要があることから、本規準では雨を貯めて活かす「蓄雨(ちくう)」という新たな概念を提示しています。「蓄雨」は、すべての敷地において100㎜降雨に対応する規準を設けたもので、治水だけでなく、利水、防災、環境の4つの側面からこれらを統合的に管理する技術であり、建築を起点としたまちづくりの手法ともなります。(日本建築学会環境基準 雨水活用技術規準 (AIJES-W0003-2016)パンフレットより抜粋)
図版出典:日本建築学会「雨水活用技術規準」(PDF)」

関連情報:日本建築学会「雨水活用技術規準(PDF)」 関連情報:日本建築学会「雨水活用建築ガイドライン(PDF)」

水害からの復旧~もし浸水被害にあってしまったら

国土交通省の「河川事業概要2023」によると、過去10年間に国内約98%の市町村で土砂災害が発生しています。
これは日本のどこに暮らしていても、高い確率で水害被災にあうことを示しています。
「震災がつなぐ全国ネットワーク」では、「水害被災からの暮らしの再建」に役立つさまざまな資料を公開しています。

震災がつなぐ全国ネットワーク ウェブサイト
震災がつなぐ全国ネットワークは、阪神・淡路大震災を機に共生型社会の大切さに気づかされた全国に点在する人々が、互いの違いを認め合いながら、過去の災害が教えた課題をともに学び、提言し、今後の緊急時には共に動くことを目的としたネットワーク組織です。

Web公開版「水害にあったときに」~浸水被害からの生活再建の手引き~(PDF)
編集:震災がつなぐ全国ネットワーク(2023年6月)
浸水被害からの生活再建の手引き「水害にあった時に」をWEB公開版(PDF)と冊子版を提供しています。日本語版と合わせて英語版も公開しています。

浸水した家屋の片づけと掃除のしかた(動画)
制作:NHK、協力:震災がつなぐ全国ネットワーク(2020年8月)
「水害にあったときに」の冊子・チラシを補完するために作成された動画です。水害被災から暮らしを立て直すまでの流れが紹介されています。

水害後の家屋への適切な対応(PDF)
作成:震災がつなぐ全国ネットワーク 協力:風組関東/MFP(2019年10月)
「家屋の片付けと清掃」するときの心得となる資料。床下浸水の場合、家財道具が濡れていなければ、床下や壁の中をチェックしないまま清掃を終わらせてしまうと、目に見えない浸水箇所を濡れたまま放っておくことになります。濡れたまま放置すると、後からカビや悪臭が発生し生活に支障がでる場合あるため、専門家以外でも水害後の家屋の浸水状況を確認できる方法をまとめて紹介しています。

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