kkj 特集~緑と共に暮らす
緑が支える暮らし
緑の持つ機能とはなんでしょう?
自然災害を未然に防ぐ、気候を緩和する、土壌の流出を防ぐ、水を貯える、生き物を育む、水や空気を浄化する、美しい風景をもたらす、癒しの場になる、汚染物質の吸収などなど、都市の中だけでなく、遠く離れた緑からも私たちは多くの恵みを与えられているのです。
この記事は2007年7月に作成されたものです。文中で紹介しているデータは当時のものですので、ご了承ください。
森林の機能~土壌と水の保全
地球全体の水は、海水も陸水も、ともに太陽エネルギーで暖められ水蒸気になり、上へ上へ上昇し、大気に広がって留まり、凝結して雲になって、やがて雨や雪などに姿を変え、再び地上に降りそそぎます。水は、大気・陸地・海洋といった三圏に渡る循環を繰り返しています。
地上に降った後の雨の行方を「裸地」と「森林」とで比較してみます。
裸地(緑が植わっていない土地)に雨が降ると、降った場所に水を溜めておく力がないので、降った水は土中の栄養素もみんな川へと、海へと運びさって、植物が育つ栄養が不足していきます。栄養が不足した土壌は砂になって、植物が育たない砂漠へと変わっていきます。
しかし、森林に雨が降ると、地表面を流れて川へと注ぎ込む水は、降った水量の4分の1程度に収まります。森林に大雨が降った場合でも、川へ注ぎ込む水の量も裸地に比べると少なく、下流域での洪水の防止にも役立つのです。
雨は植物を通って蒸散、蒸発し、空へと登り、雲になります。また森林に降った雨はいくつかの土の層を通りながら石や岩のミネラルを含み、地下へと涵養されていきます。
森林に降るのは雨や雪だけではありません。濃霧が森林に流れ込むと樹木の枝葉などに霧滴が付き、やがて大粒の水滴となってしたたり落ちる現象を「樹雨(きさめ)」と言います。この「樹雨」のおかげで、ほとんど雨が降らなかった夏でも年間降水量の2~2.7倍の樹雨量があったり、林外雨量よりも林内雨量の方が20~30%増えたなどの観測結果が、日本・アメリカから報告されています。
また、樹木が存在することで水が蓄えられる他に重要な要素として、土壌の定着という機能も森林は持っています。日本は平坦な土地が少ない急峻な地形のせいで、夏前(梅雨)と秋(台風)に集中して降る雨の後に、土砂流が山肌を縫って川下へと流れていくハンデをもっています。
その流出土量を比較すると、荒廃地は年間で307トン、畑などの耕作地で15トン、森林だと2トンと、植樹の効果はあきらかです。
資源としての人口林
今から60年前の第2次世界大戦で、国内の森林の多くは必要物資のために大量に伐採されました。さらに戦後は復興用資材として伐採され、昭和30~40年代には高度成長によって木材需要が増加し、主にパルプ用材として天然材を伐採し、その跡地に人口林が造成されました。
これら戦後の人工林造成は、戦後の荒廃した国土に早く森林を造成することで土壌保全や水源の涵養を図ると共に、建築用途などに適し、経済価値も見込める資源を造成するという観点から、育成技術が確立していて、成長が早くまっすぐ育つスギ、ヒノキ、カラマツを中心として行われてきました。
植林のピークは昭和29年(1954)。1年間で43万ヘクタールもの植林が行われましたが、昭和53年に20万を、61年には10万を割り、平成16年にはピーク時の約10分の1の2.8万ヘクタールと減少傾向にあります。植林の成長と国内の需要のタイミングが合わなかったことで、国内の需要の多くが外材へと移行し、国産材の需要が大幅に減ってしまったことが大きな原因です。
一般に森林の経済は木材として利用される立木の価値で決まります。国内材需要の大幅な減少により、その価値が低下している現状では、山で働く人の意欲も、実際の生活も行き詰まってしまいます。ちなみに国産材が高いというのは過去のこと。すでに外材との丸太価格は逆転していることは、あまり認知されていないことは残念です。
先述したように、地球温暖化を防止するための「二酸化炭素吸収源としての緑」は、人工林に他なりません。樹木には二酸化炭素を吸収できる力にピークがあり、それを超えると取り込む量が減っていきます。同じ原理で天然林は酸素は吐く量と二酸化炭素を吸収する量が等しいため、新たな二酸化炭素吸収源とはなりえません。天然林を保全することと、地球温暖化を防止することには、少なくとも温室効果ガスの吸収源として考えた時、2つを並べて考えることで多くの誤解が生まれています。
また乱獲が問題視されている国の森林は天然林が多いのですが、日本の場合は人工林です。天然林と人工林の特性を正しく理解し、つきあっていくことが、環境問題を考える始めの一歩かもしれません。
暮らしを守る緑
暮らしを支える緑は、山や森林だけにあるわけではありません。風や潮、音や煤塵、そして日差し。身近な場所の気候を緩和するためにも、緑は大きな力を発揮します。
○ 水源を涵養する
植林地
水源を涵養する森林の多くは人工林。人の手によって植えられたスギやヒノキの森が、都市の生活を支える水を育んでいることは案外知られていません。日本の人工林は日本の総森林面積の約4割。先人たちが木を植えては使うという循環型の資源活用を続けていた結果ですが、この仕組みは木材が使われなくなったことで崩壊しつつあります。水資源を涵養するためにも、自分たちができることを都市部の人も真剣に考えなくてはいけない時期にきているのです。
○ 水田による治水治山
暮らしを支える緑は、山や森林だけにあるわけではありません。風や潮、音や煤塵、そして日差し。身近な場所の気候を緩和するためにも、緑は大きな力を発揮します。
○ 二次林との共生
里山
里山とは里に近い二次林で、人々が自分たちの生活に必要な資源を得る為に管理していた場所です。現在は農村部から働き手が去ったことや、薪などの資源を生活に必要としなくなったため、利用されない場所が増えています。
屋敷林
防風林というと屋敷林が有名です。屋敷林は屋敷の周りを囲う防風林で、冬の強風や吹雪から屋敷を守ってくれます。また用材や薪材にもなる有用林であり、鳥や昆虫、小動物の生息場所にもなっています。
海岸林
日本の海岸線は総延長3万km。四方を海に囲まれているため、海や海岸沿いの土地に大きく依存しています。海岸付近の居住域、農地、生産施設、交通の安全を確保するため、海岸林整備の歴史は約400年前から砂丘に森林を造成することからはじまりました。主な植樹種は乾燥や湿気、潮風に強いクロマツ。近年では間伐材を利用した防風柵を用いた海岸林の造成や苗木の生長促進の方法も広がりつつあります。
○農業との共生
エディブル・デザイン
現在の日本の食料自給率は40%。先進国の中では最低のクラスにあります。輸入大国でありながら、輸入した食材の2割は食べられることなく捨てられていたりして、なんだかあべこべなことが起こっています。また一方では、都市の市民農園では倍率が年々高くなっていたりして、農と食をめぐる問題を「都市の緑化」と組み合わせて、解決してみてはいかがでしょうか。
○都市の緑化
鎮守の杜
明治神宮など人工で植えられたにも関わらず豊かな生態系の基盤を、都市の中で築く場所もありますが、多くは天然林です。そのため土地にあった植生をしていることが多く、近くにある鎮守の森は、その周辺環境に合った樹種や林内構成を確認する際に大きな手助けになる場所です。
公園・緑地
コンクリートに囲まれた都市部において、公園などの大規模な緑地は暑さを緩和する「クール・アイランド」として機能します。樹木の蒸発散が周囲の熱を奪い、樹幹が太陽光を遮断し、樹木が多く重なりあう森は他の場所よりも温度が低く保たれているため、夏季の冷熱源となります。
建物の緑化
住宅のまわりに、その環境や用途にあった緑を育てることで、暮らしの省エネを助けることができます。
例えば、南側の開口部への日差しを遮るよう、夏は葉がしげり、冬は葉の落ちる落葉樹を植えることで、冬と夏、両方の厳しい気候を和らげることができます。また緑で被覆した土面を都市に多く作ることで、地下水の涵養などの水資源へも寄与します。
緑のカーテン
緑のカーテンとは、ウリ科の植物を主に使い、夏の暑い日差しを遮り、快適な授業環境を得ようとするものです。植物の葉の蒸発散によりカーテン周辺の気温が低く変わる事や、3~4階までの高さの日射が可能になることなどから、小学校や役場など公共性の高い場所で生徒や職員の環境教育の一環として行われるようになりました。
いろんな緑が暮らしを支えている
さて緑のいろんな役割を見てみてきましたが、あなたが一番関心を抱いた緑はどんなものだったでしょうか?
住宅をとりまく様々な問題を解決するために考えられた「環境共生住宅」では、具体的に以下の3つの目標を満たすことが求められています。
1.地球環境にやさしい家づくり
2.まわりの環境と親しむすまい
3.健康で快適なすまい
緑を活かしたすまいづくりを行うこと、それはこの3つの目標を達成するために有効な手段です。
そして緑のもつ様々な機能やそれぞれの性質への確かな理解は、心地よい家や環境を生み出していくことや、循環型社会の実現にもつながります。緑は様々な要素をつなぐ鍵だと言えます。
興味のアンテナが向く先は、人それぞれ。
まずはあなたはあなたの興味が向くように、環境と共生する暮らし方を始めてみてください。すまいづくりを始めてみてください。
まず「一歩」を始めるてみること。
きっとその一歩が、未来をより良い方向へと導いていくのです。
緑と共に暮らす