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ESHパッシブデザインツール

スタートアップガイド 平屋住宅の事例

はじめに

モデリング

ツールを使って、オリジナル設計プランのシミュレーションを行うには、3次元モデラーSketcuUpを使って建物をモデリングします。SketchUpにEuclidというプラグインをインストールして、EnergyPlusを利用するための環境を整えます。

■評価の流れ

シミュレーションによって、各室、各部位ごとや建物全体など、様々な出力結果を得ることができます。専用のビューワーによって結果がグラフィカルに表示され、比較検討が行いやすいようレイアウトにも工夫がされています。これを使って比較検討を繰り返して評価を行いますが、結果を見比べるだけで正しい評価が行えるようになるには、相当な知識と経験が必要です。これからシミュレーションに取り組もうというユーザーにとって、実はこの難しさが高いハードルとなっています。

kkjでは、簡単にシミュレーションと評価を実践することができるよう、ベースモデルプラン(Model01)の熱性能を指標とする評価手順を提案しています。はじめにベースモデルプランの熱性能を把握するためのシミュレーションを行い、これを目安として、比較検討を重ねて目標性能に至る流れとなります。これからその手順をご紹介します。

評価方法の流れ

■熱性能を分析

ツールでは、簡易計算と詳細計算の2つの計算方法を用意していますが、今回紹介する手順は、簡易な方法の「レポート出力」で得られる次の3点を比較することで行います。

Model01とオリジナルプランである設計住宅では、建物形状や規模が異なるので、計算結果をそのまま比べることはできません。あくまで、参考値として取り扱います。

ベースモデルプランの概要・熱性能

■概要

ツールには、省エネ基準策定モデルである自立循環型住宅モデルがサンプルモデル(Model01)として組込まれていますので、これをベースモデルプランとして活用します。
(各モデルは庇あり、なしの2種類用意しています)

出典:建築環境・省エネルギー機構『温暖地版 自立循環型住宅への設計ガイドライン』を元に加工
出典:建築環境・省エネルギー機構『温暖地版 自立循環型住宅への設計ガイドライン』
ベースモデルプラン
●1階:居間食堂、和室が南側に配され、北側には台所、トイレ、浴室といった水回りが配置。
●2階:寝室、子供部屋が南側に配され、寝室の北側にはクローゼット、子供部屋の北側にはホールとトイレがあり、バッファーゾーンとして機能。

計算条件は、茨城県小美玉(5地域)の気象データを用い、木造充填H28省エネ基準相当の仕様を用います。建物条件、居住条件は下図の通りです。

1階リビングの室温

建物条件タブ
建物条件タブ
居住条件タブ
居住条件タブ

■ベースモデルプランの熱性能

居室面積と暖冷房使用の有無
居室面積と暖冷房使用の有無
居室室温の設定温度超過時間
居室室温の設定温度超過時間
暖冷房使用室の暖冷房負荷量
暖冷房使用室の暖冷房負荷量

平屋住宅の概要

設計住宅
●中心にLDKを配置し、そこに寝室、子供部屋、和室、水回り空間が接続されている。
●LDKの開口部は南側に設置されているが、比較的小さく、主に夏の対策を中心に設計されている。
●夫婦と子供一人の3人家族。
居室面積と暖冷房使用の有無
居室面積と暖冷房使用の有無

分析1  時刻別室温変動

1月の室温変動(LD)
●日中:設計住宅のほうが、日射の多い日で5℃程度低い。
設計住宅は暖房設定温度の20℃に到達しない日が多い。
●夜間:大きな差は見られないが、設計住宅のほうが1℃程度低い。
8月の室温変動(LD)
●設計住宅のほうが、最高室温が2℃程度低い。
●夜間:最低室温は、設計住宅のほうが1℃程度低い。

分析2  暖冷房負荷量

暖房負荷
設計住宅の暖房負荷は、ベースモデルプランの約1.5倍。
冷房負荷
設計住宅の冷房負荷は、ベースモデルプランの約6割。
暖冷房使用室の暖冷房負荷量の比較
暖冷房使用室の暖冷房負荷量の比較

分析3  設定温度超過時間

設定温度超過時間の集計は、暖冷房運転ありとなしの2種類出力されます。この比較では、建物自体の性能を確認するために、運転なしの結果を用いて比較を行っています。

LDの室温が13℃未満の時間数
ベースモデルプランに対し、設計住宅では約600時間多い。
LDの室温が30℃を超える時間数
ベースモデルプランに対し、設計住宅は約700時間少ない。
居室室温の設定温度超過時間
居室室温の設定温度超過時間

評価

■設計住宅の熱的性能(まとめ)

1.設計住宅は、LDの床面積(47㎡)が設計住宅(22㎡)に対して大きい反面、南面の開口面積はほぼ等しい。
 そのため、LDの床面積に対して透過日射量が少なく、年間を通じて室温が大きく上昇しない。
2.設計住宅は庇、西側の垂直庇により、冬期の日射が十分でないため室温が上昇しない。

改善目標:設計住宅の、冬期の室内環境を改善する。

■設計住宅の熱的性能向上方策

冬期の室内環境改善のためにはいくつかの方策が考えられます。実際の設計作業の過程では、すべての可能性についてシミュレーションを通じて検証します。パラメータをひとつひとつ変更しながら、繰り返し計算を行い、その中からベストな方策を選択します。

方法の選択肢
①開口部の性能向上
②蓄熱の付加
③断熱仕様の変更(ZEHレベル)
④日射遮蔽の改善(これを選択)
・居間の南側開口部を取り囲む日射遮蔽の庇を取り除く。
・夏期の冷房負荷の増大に配慮し、外気が20~28℃の時に外気導入。

■日射遮蔽の改善効果

庇を取り除くことにより、冬期に室内に透過する日射量が増大する。
●日中の室温が約3℃上昇。
●暖房負荷が若干減少。(比較住宅より大きい)
●冷房負荷は微増。(比較住宅より小さい)
設計住宅の暖冷房負荷量の変化(LD)
設計住宅の暖冷房負荷量の変化(LD)

評価

省エネ基準策定モデルであるベースモデルプランの熱的性能を比較の目安として、設計住宅の検証と改善の手順をご紹介しました。

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