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kkj 特集~環境共生住宅と水害

水害リスクと土地選び

日本は昔から水害の多い国で、人の暮らしを守るために「治水」が行われてきました。その成果もあり、死者が1000人を超える水害は、1959年の伊勢湾台風以降はありません。ただ戦後数十万棟の被害があった住家浸水被害は、1986年の台風10号以降は大きな被害がなかったものの、2004年は梅雨前線による集中豪雨や観測史上最多となる10個の台風の上陸により、全国各地で水害、土砂災害、高潮災害などの自然災害が発生し、多くの死者・行方不明者が出ています。2004年の水害による死者・行方不明者数は227名、住宅被害199,371棟と大きな被害を受けています。
2019年に起きた台風19号は、極めて広範囲にわたって豪雨が続き、河川の氾濫やがけ崩れなどが発生しました。2019年10月12日に北日本と東日本のアメダス地点(1982年以降で比較可能な613地点)で観測された日降水量の総和は観測史上1位となりました。台風19号では甲信越地方から関東、東北地方までの広い範囲で被災し、死者90名、行方不明者9名、住家被害は100,621棟にも上りました。
台風や長雨の頻発化、平均雨量の増加が私たちの暮らしに大きな被害をもたらしています。
特に台風19号での甚大な被害は、今まで土木分野の課題だと思われてきた水害対策を、建築分野でも考えていかなければいけないという大きな契機となりました。
参考資料:国土交通省/水害統計調査

洪水による建物被害の推移(水害統計調査より)
出典:国立研究開発法人 建築研究所 EpistulaVol.85(発行:2021.7)

水害の発生しやすい地形~日本の国土は4分の3が山地

日本は島国で、南北に細長い国土を持っています。約38万Km2の国土面積は、世界240の国や地域中62位で、際立って狭いわけではありません。
しかし日本は高い山が多く、平地が少ないため、諸外国と比べて、国土面積に占める「可住地」の割合が少ないのが特徴です。可住地とは、人が住むのに適した土地のこと。標高500m以上の山地や森林、湖・沼など、住むのに適さない土地を含みません。つまり山がちな日本の中の「可住地」は、低い土地に集中しています。

国土に対する可住地の割合を他の国と比べると、ドイツは日本の2.4倍、フランスは2.6倍、イギリスは3倍にもなります。つまり人が家を建てて暮らすことに適した土地が、他の国に比べて少ないのです。

その上、日本は国土に対して人口が多いため、国土面積あたりの人口「人口密度」は、この4か国の中でも最も高く、「可住地の人口密度」で比べると日本は飛びぬけて高く、世界でも極めて人口密度の高い国になっています。

国土面積に占める可住地免責の割合

出典:「わたしたちのくらしと国土 低い土地のくらし」監修:井田仁康 発行:金の星社 

洪水氾濫域に人口・資産が集中

日本の大都市の多くは港湾に面しており、多くの人が集まって暮らしています。その中には、「海抜ゼロメートル地帯」と呼ばれる場所があります。 「海抜ゼロメートル地帯」とは、標高が平均海面と同じか、それよりも低い地域です。
港湾に面した代表的な大都市として、東京湾に面した「東京」、大阪湾に面した「大阪」、伊勢湾に面した「名古屋」があります。この3つの都市の中にも海抜ゼロメートル地帯があり、そこには合わせて約400万人もの人が集まって暮らしています。

海抜ゼロメートル地帯は、潮が満ちてくると地面より海面が高くなります。高波や高潮などの時は浸水する恐れがあり、大雨による増水があれば洪水が起きやすい場所です。
海や河川の水位より低い土地に都市が形成されている場合、河川から水が溢れたり堤防が決壊したりすると大きな被害が生じることになります。

そこで河川の下流部にある低い土地に暮らす人々は知恵を絞り、高い堤防や増水した水を流す水路を作り、水を吐き出すための強力な排水ポンプを設置するなどの様々な対策を行い、水害を克服してきました。
しかし近年、水害を克服してきた都市部でも水害被害が多発しています。それはなぜでしょうか?

都市化が進み、流域の多くが市街地化したことで、自然遊水地が減少しました。そのことにより、短時間に大量の表流水が河川に流れこむようになり、雨が降った時に急激に河川の水位が上昇します。
また地下空間の利用が進んでいる大都市の駅前周辺などでは、地下施設への浸水被害が生じるなど、都市化による水害リスクが高まっています。
水害は日本に暮らす私たちにとって、常に意識しておきたい自然災害の一つです。

参考資料:わたしたちのくらしと国土 低い土地のくらし/監修:井田仁康(筑波大学教授)、発行:金の星社

水害リスクマップの利用から見えること
出典:国立研究開発法人建築研究所「水害リスクを踏まえたまちづくりについて/令和4年度建築研究所講演会/木内 望」
地下施設への浸水
出典:国土交通省「河川事業概要2023」

水害に備える土地選び

1.地形やハザードマップを確認し、浸水の可能性を確認する

【自治体が公表するハザードマップなどを確認する】
・自治体から公開されている浸水の予測される区域や浸水の程度、避難所の情報を記載した洪水ハザードマップを確認する。
・近年の局地的豪雨では、河川の氾濫だけでなく、低い土地に周囲から雨水が集まり、浸水することがあるので、地形にも注意する。

2.前面道路などより高い地盤を確保する

【前面道路よりも高い地盤を確保する】
・周囲より低地であり、豪雨時に雨水が集中する可能性がある敷地では、できるだけ前面道路などよりも地盤をあげる。
・前面道路などから段差なく進入する地下駐車場などは設置をさける。

出典:環境共生住宅早わかり設計ガイド/戸建住宅編(一社)環境共生住宅推進協議会

洪水浸水想定区域部と水害リスクマップ

被害対象を減少させる取り組みの一つとして、「水害リスクマップ(浸水頻度図)」があります。「水害リスクマップ(浸水頻度図)」は、国や都道府県が、これまでの水防法に基づき、住民などが迅速かつ円滑な避難に資する水害リスク情報として、想定最大規模降雨を対象とし手作成した「洪水浸水想定区域図」をベースに、比較的発生頻度が高い降雨規模も含めた複数の降雨規模毎に作成した浸水想定図(多段階の浸水想定図)と、それらを重ね合わせて浸水範囲を浸水頻度の関係を図示したものです。

出典:水害リスクマップ及び多段階の浸水想定図(国土交通省)

水害リスクマップの活用方法

土地利用や住まい方の工夫、水災害リスクを踏まえた防災まちづくりの検証及び企業の立地選択など、流域治水の取り組みを推進に役立つ情報として公表しています。

活用方法の例「3つの浸水深閾値の図を比較する」

【建築構造や住まい方の工夫に役立てる】
居住スペースや1階をピロティ構造にするなど、建築構造の参考にする

【企業立地選選択などに役立てる】
浸水頻度の高い場所への施設の立地を避ける。
浸水確率を踏まえて、事業継続に必要な資機材を2階以上に移動する
止水壁を設置する など 浸水時の対策を検討する

【水災害リスクを踏まえたまちづくり・避難所設置に役立てる】
立地適正化計画における防災指針の検討・作成などへ役立てる

関連情報

タイトル 事業主体 概要
特定都市河川の指定制度
「浸水被害防止区域の指定」
事業主体: 国土交通省 概要: ハード・ソフト一体の水災害対策「流域治水」の本格的実践に向けて、特定都市河川浸水被害対策法に基づく特定都市河川を全国の河川に拡大し、ハード整備の加速に加え、国・都道府県・市町村・企業などのあらゆる関係者の協働による水害リスクを踏まえたまちづくり・住まいづくり、流域における貯留・浸透機能の向上などを推進する取り組みを紹介。そのうち「浸水被害防止区域の指定」では、水災害リスクを踏まえた重層的な取り組みにより、安全なまちづくり・住まいづくりを推進するための取り組みが紹介されています。
水害ハザードマップの利活用事例集 事業主体: 国土交通省 概要: 水害ハザードマップの利活用の具体事例をまとめた事例集。避難訓練や防災学習など、地域ごとの水害リスクを学ぶ教材として、水害ハザードマップを活用することもできます。
防災教育ポータブル 事業主体: 国土交通省 概要: 学校で授業を行う先生など、防災教育に取り組む際に役立つ情報・コンテンツとして、国土交通省の最新の取り組み内容や授業で使用できる教材例・防災教育の事例などを紹介しています。

水害に備えたまちづくり

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